レポート
台東区に生まれるイロドリ〜前編
「だれでも何度でもチャレンジができる場所」
そんな思いを掲げる場所が、台東区にはある。
福島県の『社会福祉法人 清峰会』が東京浅草の今戸にて、グループホーム、B型作業所と、生活介護を運営する新しい福祉施設だ。
そのB型作業所「ルーツ」として施設の一階に構えているのが『IRODORI café』。
やわらかな日差しが差し込む、明るく清潔感のあるカフェ。
ふと意識をすると、コーヒーの香りがする。
コーヒー好きの間では知らない人がいないと言われている「カフェ・バッハ」の豆を使用したフレンチプレスコーヒーの香りだ。
昨年コロナ禍の中始まったばかりのこの店は、カフェとして、福祉作業所としての在り方を模索していた。
僕たちは昨年度に続き、台東区役所の障害福祉課による自主制作商品への支援として関わらせていただいた。
「パワーアップ台東」の一環である、デザイナー支援として。
この新しい立派なカフェで、どのような課題を抱えているのか
どのような新しい道標を示す事ができるのか
ブランドを遂行するNODDとして
NODDを遂行するGRIP GRAP DESIGNのデザイナーとして
IRODORI caféを新たにブランディングしていく形で支援が始まった。
僕たちは、まずは課題を洗い出すべくヒアリングに多くの時間を費やした。
このカフェがどのような意志で、誰のために、何のためにあるのか様々な課題を洗い出した。
- デザインテーマが統一されていない
- 支援員それぞれで違ったイメージを持っているが、なかなかすり合わせが出来ないでいる
- 看板商品が定まっておらず、発信している情報が散乱している
- 商品のキャッチコピーや、原材料等のこだわりが打ち出し切れていない
- 就労支援事業所として、障害者の方が地域社会で共に働く場としてのあり方
ブランディングを定めるには、まずは弱みに対してしっかりと向き合うことから始める。
また福祉作業所という特色柄、働く利用者の方々の親御さんの意見もとても大切である。
その内容も切実なものだ。
- 社会人としてしっかり仕事ができるようになってほしい
- 障害者というだけで甘やかさず、社会で働く厳しさを分かってほしい
- 親亡き後を考えると、もっとお金を稼いでほしい
「現在のIRODORI caféにとって、うちの子がいることは迷惑なのではないか?」とすら家族の方々は心配をされる。
デザインをするにも、ブランディングをするにもそこに在るのは「人」とその想いだ。
まずは「人」としてどうあるべきかの深層を探る旅を続けた結果、改めて自分達が大切にしていくものに気付かされるのだ。
福祉が運営するカフェである事は、運営時間が短かったり感染対策の厳しさから、イートインが出来ない時期が長かったりする弱みもある。
しかし追求をつづける事で、働く当人たちが不安に思っているところからこそ強みが現れてもくるのだ。
- 支援員がカフェのスタッフをする兼業的な働き方になってしまう
→スタッフ全員が車椅子を押せて、障害のある方への対応が出来る。
- 利用者が接客をする不安
→素直さのある愛嬌があって、ファンになるお客様が生まれる。
これは素晴らしい強みとなるものだ。
福祉であるからこそ、他店ではマネできない差別化を元々持っているである。
そして僕たちは通ってるうちにある点へと気をとめた。
「焼き菓子買わせてもらってもいいですか?」
閉店後ながらいつも親切に対応していただいていた。
打ち合わせの帰りには、お土産に買わせてもらうのが習慣となっていたのである。
なぜならIRODORI caféは
「焼き菓子を中心としたスイーツが美味しい」のだ。
何回目か購入した時、ふと気づいた。
「そういえば、来るたび違うお菓子が並んでいますよね。」
「そうなんです。毎日違うメニューのスイーツを焼いているんですよ。」
「え、毎日?」
なんと、支援員であるスタッフに管理栄養士のスキルを持つ方がおり、原材料や製造工程まで一括管理して毎日メニューを開発していたのだ。
これには驚かされた。