レポート
【クラーク高校】コロナ禍だからこそできたこと
「検温と消毒をお願いしま〜す」
すっかりなれた日常の光景である。それ程の長い非日常の時間が過ぎたともいえるだろう。
『This is not the end』
僕らはこの日、クラーク高校パフォーマンスコースの演目を見に来ていた。
保護者と関係者のみの少人数が観覧できる特別仕様だ。
少人数でもったいないって?
そんな事はない。
なぜならば様々な公演が中止になってきた彼らにとって、人前でパフォーマンスができる事自体が素晴らしい価値がある。
なにしろ3年生はもう卒業なのだ。
会場の入り口付近に目を向けると、一枚の絵が置いてある。
それはあるアーティストにより、前回のクラーク公演『S』の映像を見ながら描かれた絵だ。
【アーティスト紗羅】
「紗羅は絵を描く事が大好きで最初はペンが滑ったり、トントンしたりするのが楽しくて気持ちよくてずっと描いていたんですよ。はじめは紙に描いていたんけどタッチが強いから穴があいてしまうので、アートボードに多く描くようにしていったんです。」
初めて会った時、母であるみどりさんは楽しそうにそう教えてくれた。
他に描く先はキャンバスやマグカップなど。画材もアクリル、色鉛筆、マーカー、ボールペンへと様々に使い分けて表現する。
みどりさんの創意工夫より、描く世界が進化していっているのだ。
その紗羅さんが『S』の映像を見ながら描く。
その特殊性からか、絵は描きながらどんどん変化し続ける。
そして演目の終了と共に絵もひとつの形となった。
まさに躍動。
今回、この変化をつづける作画の様子をみどりさんは動画におさめていた。
その記録をリモート授業の一環として生徒の皆と共有した。
みどりさんいわく「水色は雨と風をあらわしています。舞台のテーマとなっている風を感じたのでしょうね。きっと紗羅は自分がステージのはじっこにいる気持ちで一瞬一瞬その場で感じたモノ、振動までも感じて描いていたのではないでしょうか?」とのこと。
また生徒のひとりはこう発言した。
「僕だったら何を描くかについて考える事がいっぱいになってしまう。でも、サラさんにはそれがないんだ。野性味あふれたタッチで自由に描いているんですね。絵ってそんな自由でいいんですね。」
そんな様々な話がリモートを通じて行われ。とてもあたたかな時間が流れた。
今まで自分たちのパフォーマンスに対して、色々な感想をもらってきた彼ら。
しかし、その感想をアートという「表現」で返してもらった事は始めてだ。
「表現」を「表現」で返す。
言葉で多くを説明できなくても、それ以上に多くのコミュニケーションを紗羅さんは一枚の絵で表現したのだ。
そして僕らNODDの出番だ。
リモート授業を通じて受け止めた、コロナ禍での彼らの想い。
紗羅さんの表現した「クラーク高校のパフォーマンス」。
それを彼らが着るためのTシャツのデザインへと落とし込む。
今回のテーマは『時』だ。
過去を塗り替える変化への勇気。そしてそれを活かして次に進む希望。
無駄なようで無駄ではなかったその過程の美しさ。
そのコンセプトをデザイン化する為、完成形の絵だけではなく途中段階の絵とも構成した。
柄には生徒からもらった多くのメッセージも込められている。
メッセージを伝えるのは、Tシャツの大きな役割のひとつだ。
そうしてグラフィックデザインは作り上げられていった。
今回のプロジェクトの全貌はこうである。
【パフォーマンスコース舞台公演『S』】
↓
【紗羅さんのイマジネーションでアート作品に】
↓
【NODDによるデザインによりTシャツに】
↓
【本公演のパフォーマンスにて使用】
これらはすべてパフォーマンスコースの先生が考え、生徒の為に与えられたものだ。
舞台が中止。
行事も中止。
授業はリモート。
体育祭もリモート。
黙食という名の孤食。
今の学生たちは様々な我慢を強いられ、今もそれは続いている。
そんな生徒たちの姿を一番近くで見て、どうにかしてあげたいと本気で思った先生の気持ちから生まれたものだ。
「先生って、生徒の為にそんな一生懸命になれるのか」
自身が学生の時には気づけなかった事を、今になって知らされた思いだ。
そんな先生と生徒が作り上げた『This is not the end』。
とてもささった。
ちいさな会場の中で、揺れる会場と光る汗と共にパフォーマンスコースの想いを感じた。
生徒たち、特に卒業する3年性は時間が失われたように思うかもしれないが、それはそれで大切な経験と思っていただきたい。なぜなら卒業しても新たな経験により、紗羅さんの絵のようにどんどん塗り重ねられていくのだから。
自分自身がこの先を作るのだと、このTシャツを着るたびに思ってくれたら僕たちはうれしい。
Photography & Written : 寺門 誠/ Makoto Terakado
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